大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

高松地方裁判所 昭和44年(わ)213号 判決

被告人 清家勇

大二・七・二六生 金属屑商手伝

主文

被告人を懲役一年六月に処する。

未決勾留日数中三〇日を右刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、(一)昭和三六年五月二日松山地方裁判所宇和島支部で窃盗罪等により懲役三年に、(二)同三九年一二月二三日丸亀簡易裁判所で窃盗罪により懲役二年八月に、(三)同四二年一二月二二日徳島地方裁判所で窃盗罪により懲役一年三月に各処せられ、いずれもその頃その刑の執行を受け終つていたものであるが、更に常習として、

第一、昭和四四年四月二一日午前一時頃、高松市松並町六六六番地の一飯関正道方店舗兼倉庫において、同人所有のお好焼鉄板一枚・ガスコンロ一個・ガス炊飯器一個(時価合計一五、二〇〇円相当)を窃取した、

第二、同月二七日午前二時頃、香川県綾歌郡国分寺町国分一、〇四五番地渋田豊三方において、同人所有の柱時計・トースターポツト各一個、ズボン・レインコート各一着(時価合計二〇、〇〇〇円相当)を窃取した、

第三、同年五月一日頃、同県坂出市府中町四、八一〇番地の一小早川知方前に駐車中の自動車内から、同人所有のテープレコーダー一台・短刀一振(時価合計二〇、二〇〇円相当)を窃取した、

第四、同月上旬頃、同県綾歌郡国分寺町二、〇六〇番地の三山本敏行方店舗において、同人所有のカルピス三本・清酒一級二本(時価合計二、四二〇円相当)を窃取した、

第五、同年七月一八日午前零時四五分頃、窃盗の目的で同県木田郡牟礼町牟礼二〇三一番地所在の木村照雄方居宅の旋錠してある玄関の雨戸を持ちあげて外し、その内側のガラス戸を開けて玄関内に至り、もつて住居に侵入した、

ものである。

(証拠の標目)(略)

(累犯前科)

被告人には前記(一)(二)(三)の前科があり、何れも判示犯行前に各刑の執行を受け終つたものであつて、右の事実は被告人の当公判廷における供述および検察事務官作成の前科調書によつてこれを認める。

(法令の適用)

被告人の判示第一ないし第五の各所為は包括して盗犯等の防止及処分に関する法律三条(同法二条)に該当する。

判示第一ないし第四の窃盗の各所為は、常習としての窃取行為の反覆であるから、これを包括して一罪として盗犯等の防止及処分に関する法律三条に該当することは明らかであるが、判示第五の住居侵入の所為を判示第一ないし第四の窃盗の各所為と包括して一罪とすべきか、これらの別個の併合罪とすべきか、同法三条の解釈上問題がない訳ではない。同法三条は同法二条と異なり、常習窃盗犯人に対し行為前の一定の前科を参酌して刑を加重しようとするものであり、その常習性は窃盗自体について認められれば足り、その方法の特殊性が要件になつていない。そこで本件のように、窃盗目的で夜間住居に侵入した所為が、他の(夜間住居侵入)窃盗と一連の関係において、窃盗の常習性の発露としてなされていても、これを包括すべきものとする根拠に乏しいかに見えるからである。しかしながら、同法二条の解釈としては、方法の特殊性が要件になつているのであるから、窃盗目的で夜間住居に侵入した所為も、若しそれが他の夜間住居侵入窃盗と一連の関係において、窃盗の常習性の発露としてなされたものならば、これを包括するものと解することに異論は少ないであろう。かかる解釈を前提として、同法二条と同法三条を対比してみると、同法三条は方法の特殊性が要件でないとはいえ、方法の特殊な場合を除外する趣旨が明らかであるともいえない。(他方同法二条も累犯性のある場合を除外する趣旨が明らかであるとはいえない。)つまり本件は、常習累犯窃盗(同法三条)の訴因で起訴されているけれども、前掲各証拠によれば常習累犯(特殊)窃盗とも称すべき事実関係が認められる。かかる場合その累犯性において同法三条を適用すべきなのか、その特殊性において同法二条を適用すべきなのか、同法二条と三条の適用領域問題があるが、規定相互の関係からはいずれが優先するともいずれが他方を吸収するとも断じ難い。これは立法の不備であつて、本件のような場合は選択的に同法二条にも該当するし、同法三条にも該当すると解するの他はない。してみると、同法二条を適用する場合は住居侵入が包括され一罪となり、同法三条を適用する場合は住居侵入が包括されず、はみ出して併合罪となり、その選択如何によつて処断刑に差ができるというのは不合理である。又別の観点からすると、窃盗目的で夜間住居に侵入したに止まれば他の(夜間住居侵入)窃盗と併合加重され、夜間住居に侵入して窃盗すれば、他の(夜間住居侵入)窃盗と包括されて一罪となり、併合加重されず、かえつて処断刑が軽いというのは不合理である。(同法三条の場合、刑法五六条一項の要件を具えた累犯があれば累犯加重する結果併合加重の有無が処断刑に影響することはないが、刑法五六条一項の要件を具えていなくても盗犯等の防止及処分に関する法律三条の累犯関係の要件を具えている場合も考えられる。)そもそも盗犯等の防止及処分に関する法律は、昭和初年の経済的不況を背景とする兇悪な窃盗・強盗等の犯罪対策として常習的盗犯者に対して刑を加重したものであるが、その要件のあいまいなこと、その刑の苛酷なことなど立法上批判さるべき余地が少なくない。従つてその解釈に当つては、被告人の刑責をいたずらに加重することのないように、条文相互間の関係を合理的に理解するように、慎重を期すべきであり、常習的な盗癖を有するものを重く処罰しようとした立法趣旨を基準にすべきである。これを同法二条および三条の解釈としてみると、同法二条が窃盗の常習性の発露としての夜間住居侵入を包含しているものと解するとともに、同法三条もまた窃盗の常習性の発露としての夜間住居侵入を包含している(他目的の住居侵入は窃盗の常習性の発露ではないから、別個に評価さるべきことはいうまでもない。)ものと解することが最も妥当と考えられる。従つて、判示第一ないし第五の各所為は包括して同法三条に該当する。

被告人には前記(一)ないし(三)の前科があるので刑法五九条・五六条一項・五七条により同法一四条の制限内で四犯の加重をし、なお犯情を考慮し、同法六六条・七一条・六八条三号により酌量減軽をした刑期の範囲内で被告人を懲役一年六月に処する。なお同法二一条を適用して未決勾留日数中三〇日を右刑に算入することとし、訴訟費用については刑事訴訟法一八一条一項但書を適用して被告人に負担させないこととする。

よつて、主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例